多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

定義

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は不妊の原因になる症候群です。女性の体に備わっている2つの卵巣が通常よりも大きく腫れたように見えるのが特徴で、中には成熟しきれない数多くの卵子が円を描くように外壁に沿って並んでいます。その様子が超音波でネックレスのように見えることからネックレスサインと呼ばれることもあります。

本来ならば、排卵される卵巣内の卵子が、なんらかの原因によって増加した男性ホルモンの影響により、正常な排卵が妨げられ、十分に成熟することができないがために卵巣の中にどんどんと溜まってしまうというのがこの症候群の病態です。

月経が不規則である、全くないといった症状のほかに男性ホルモンが多いことによって、身体が毛深い、にきびが多いなどといった症状も見られるのが特徴となっています。

種類や症状

PCOSでは、その人の年齢や生活習慣、体質や遺伝などの背景によって自覚する症状はさまざまで主に月経周期の異常や男性ホルモン過剰による症状、肥満などがみられます1)

「無月経」という月経がない状態が起こることがあります。3ヶ月以上経過しても月経が来ない場合には「続発性無月経」と呼ばれます。なお、月経周期が39日を超え3ヶ月以内の周期で訪れた場合は「希発月経」となります。月経は来るが排卵が起こらない場合は「無排卵周期症(無排卵月経)」が疑われます。ホルモンバランスの乱れによって卵胞が卵巣内で十分に育たず排卵ができないのが特徴です。排卵が起こっているかどうかを調べるには基礎体温を測定することが有用です。

内分泌系の異常によって体内の男性ホルモンが過剰になると、にきびが増えるなどの症状がみられます。男性ホルモンは代謝によって皮脂腺の働きを活性化させるために、皮脂量が増加しにきびができやすくなります。また、男性ホルモンの過剰分泌によって顔のひげが濃くなる、体毛が増えるなどといった症状がみられることがあります。

肥満はPCOSのリスク因子となります。

原因

原因はいまだに解明されていない部分が多いですが、今のところ男性ホルモンの産生亢進が関わっているとする説が一般的です。この男性ホルモンの産生亢進には、内分泌系の異常とインスリン抵抗性と2つの要因が関係しています。

1. 内分泌系の異常による男性ホルモン産生亢進のメカニズム

内分泌系の異常によってホルモンバランスが崩れてしまうことが主な原因とされています。卵巣ではLH(黄体ホルモン)とFSH(卵胞刺激ホルモン)が分泌されますが、PCOSではLHが過剰に分泌されアンバランスな状態になっています。LHは男性ホルモンの産生亢進作用を持つために、LHが過剰になると男性ホルモンが増え、卵子が十分に成熟せず、排卵が起こりにくくなり、卵巣が多嚢胞状態に陥ります。

2. インスリン抵抗性による男性ホルモン産生亢進のメカニズム2)

肥満の人では脂肪細胞から分泌されるホルモンの影響でインスリンが効きにくい状態になっており、その分インスリンが体内で多く分泌されます。インスリンは卵巣において男性ホルモン(アンドロゲン)を分泌させる働きがあるため、インスリンが多くなると男性ホルモンが過剰に分泌されてしまいます。

診断

診断は、血液検査および超音波検査によって行われます。日本産婦人科学会の診断基準によれば、1~3の3つの所見をすべて満たすことで診断されます2)

1. 月経異常

ここでいう月経異常とは、無月経、希発月経、無排卵周期症のいずれかになります。

2. 多嚢胞卵巣

超音波検査を実施し、卵巣の状況を確認します。所見として左右の卵巣それぞれに小さな卵胞が多数みられ、少なくとも片方の卵巣において2~9mmの小卵胞が10個以上確認された場合、多嚢胞卵巣と診断されます。

3. 血中の男性ホルモン値が高い、またはLH基礎値が高くFSH基礎値が正常

血液検査では男性ホルモンの数値が高いこと、FSH基礎値が正常である一方でLH基礎値が高値を示すのが特徴です。

治療法

多嚢胞性卵巣症候群では、妊娠を希望しているかどうかによって治療法が異なります2)

【妊娠を希望する場合】

1. 肥満の改善

BMI(体格指数)が25以上と肥満である場合、減量によって排卵誘発が促されることが明らかとなっています。2~6ヶ月の期間に5~10kgの減量を目標として食事や運動療法を行います。

2. クロミフェン療法(排卵誘発)

排卵誘発剤としてまず用いられるのがクロミフェンです2)。クロミフェンは脳の視床下部にあるエストロゲン受容体と結合してエストロゲンがエストロゲン受容体と結合するのを妨げます。すると脳はエストロゲンが不足していると勘違いし、よりエストロゲンを分泌させようとします。結果、LHとFSHの分泌が促され、排卵が促進されるというわけです。

3. メトホルミンの併用

クロミフェン療法で排卵が誘発されなかった場合、肥満やインスリン抵抗性などを認める女性に対してメトホルミンを併用します。メトホルミンは、インスリン抵抗性の改善作用を持っています。インスリン抵抗性を改善することによって男性ホルモンの増加を抑え、排卵しやすい状態にします。

4. ゴナドトロピン療法

ゴナドトロピンとは、脳下垂体から分泌されるホルモンをいい、LHやFSHなどが当てはまります。クロミフェンによる効果が現れない場合、ゴナドトロピン療法といってLH、FSHを直接注射にて投与し、排卵を誘発します2)

5. 腹腔鏡下卵巣開孔術

卵巣の表面に多くの孔を開ける手術です。詳細な機序は不明ですが、手術によって排卵しやすい環境が作られます。

【妊娠を希望しない場合】

1. 肥満の改善

妊娠を希望する場合と同様に食事や運動療法を実施します。

2. プロゲスチン製剤やピル剤による消退出血を起こす

無月経の場合、子宮内膜がん発症のリスクを抱えているため、人工の黄体ホルモン製剤もしくは低用量ピルを用いて月経のような出血を起こすようアプローチしていきます。

参考文献

1) 日本産科婦人科学会編: 産科婦人科研修の必修知識2013.日本産科婦人科学会, 東京, 2013(レベルⅣ)生殖・内分泌委員会: 本邦における多嚢胞性卵巣症候群の新しい診断基準の設定に関する小委員会(平成17年度~平成18年度)検討結果報告. 日産婦誌 2007; 59: 863-866(Guideline)

2) CChittenden BG, Fullerton G, Maheshwari A, Bhattacharya S. Polycystic ovary syndrome and the risk of gynaecological cancer: a systematic review. Reprod Biomed Online 19: 398-405,2009(レベルⅠ)Kurabayashi T, Kase H, Suzuki M et al: Endometrial abnormalities in infertile women. J Reprod Med 48: 455-459,2003(レベルⅢ)

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