更年期の集中力・記憶力低下について

この記事の監修者

前田 裕斗

産婦人科専門医

経歴

2013年3月 東京大学医学部医学科卒業
2015年3月 川崎市立川崎病院にて初期臨床研修修了
2015年4月 神戸市立医療センター中央市民病院産婦人科専攻医
2018年4月 国立成育医療研究センター産科フェロー
2018年10月 日本産科婦人科学会産婦人科専門医取得
2021年4月 東京医科歯科大学国際健康推進医学分野博士課程在学

更年期と呼ばれる年齢にさしかかると「何だか最近集中力や記憶力がなくて、今までしなかったような些細なミスをしてしまう」と落ち込むこともあります。まわりの人はみんなハツラツとしているように見え、相談できる人もなかなか見つかりにくいもの。

本記事では更年期で集中力や記憶力が低下する原因と、普段の生活の中でできる3つの対処法を紹介します。婦人科領域で更年期の困った症状によく使われる漢方薬も紹介しています。

自分の年齢や体の変化を穏やかに受け入れ、仕事にも今まで以上に前向きに取り組めるように対策することが可能です。

この記事でわかること

  • 更年期に伴う集中力低下の原因
  • 更年期に伴う集中力低下への3つの対処法
  • 更年期に伴う集中力低下へ使用される漢方薬

更年期に伴う集中力・記憶力の低下について

更年期は「閉経を挟んだ前後5年間」と定義され、日本人の場合おおよそ45歳から55歳が更年期と呼ばれる年齢。更年期の症状は大きく以下の4つに分類されます。

  • 精神症状:不安、イライラなど
  • 血管運動症状:のぼせ、ホットフラッシュなど
  • 身体症状:頭痛、胃腸の不調など
  • 泌尿生殖器症状:腟の乾き、尿もれなど

更年期に伴う集中力や判断力の低下は、上記の中で精神症状に含まれる症状です1)。

そして、更年期における集中力の低下には2つの特徴があります。1つは症状の有無や症状の程度は個人差が大きいということ。もう1つは閉経後に女性ホルモン(エストロゲン)が低い値で安定すると、約80%の人で自然と症状が軽減するということです2)。

ほとんど症状が出ない人がいる一方、日常生活へ大きな困難を感じるほど症状が現れる人もいるのが事実。集中力の低下や頭痛やイラつきなどの症状が出ている人にとっては、閉経後に自然と症状がなくなるのを待つのはとても辛い状態です。

更年期に集中力が低下する原因

更年期に集中力が低下する理由は、女性ホルモンであるエストロゲンが乱高下することで自律神経が影響を受けるからです2)。

普段、エストロゲンに代表される女性ホルモンは卵巣から放出されています。とはいえ卵巣が勝手にエストロゲンを放出しているわけではありません。脳の視床下部という場所が体内のエストロゲン量を感知し、視床下部からの命令を受けて卵巣はエストロゲンを放出します。

更年期は卵巣機能が低下するとともにエストロゲンの量も低下します。すると視床下部は「もっとエストロゲンを出しなさい!」と卵巣への刺激を増やします。すると、卵巣は脳からの刺激に応じて多量のエストロゲン分泌を行い、今度は脳が「エストロゲンは足りている!」と勘違いをして急激に分泌を低下させます。このエストロゲンのジェットコースターのような乱高下により、数々の更年期症状が生じるのです。

視床下部には集中力や判断力をつかさどる自律神経の中枢も存在します。卵巣から出せるエストロゲンの量や、視床下部からの指令のバランスが崩れることで、自律神経が影響を受けます。そのため更年期にさしかかると女性ホルモンの乱高下にともない、集中力や判断力が低下するという症状があらわれるのです。

更年期に伴う集中力低下の対処法

更年期に伴う集中力低下は「食事・運動習慣・睡眠の見直し」で対処することが可能です。もしかしたら知らず知らずのうちに、更年期に伴う集中力の低下を引き起こすような生活を送っているかもしれません。なぜ食事や運動、睡眠が更年期の集中力低下を改善するのか?どのような習慣を見直すべきなのか?ということを詳しく解説します。

食事を見直す

加工食品の摂取量が多いと集中力の低下につながります。逆に野菜を多くとると更年期症状が現れにくくなるという事実もあるのです3)。

2022年に発表された「閉経後女性の食生活と更年期症状の関連」を調査した論文によると、加工食品の消費量が多い人ほど集中力や記憶力の低下が大きいという結果が得られました。同時に野菜の消費量が多かった女性は更年期症状が現れにくく、QOL(生活の質)が高いという報告もされています3)。

加工食品には菓子パン・惣菜パン、お菓子だけでなく砂糖入り飲料、ソーセージなどの食肉製品や調理済み食品も含まれます。

つまり更年期に伴う集中力の低下に対処するにはお弁当やお惣菜だけに頼るのではなく、できるだけ野菜を多めに調理した食事に見直すとよいです。

運動習慣を見直す

デスクワークなどで座っている時間の長い人は睡眠の質が低下し不眠傾向になります4)。睡眠不足の状態が集中力の低下をもたらすのは簡単に想像がつくことです。

運動習慣の見直しで大切なことは、やみくもに運動するのではなく更年期についての知識を得た状態で運動することです。国内外の研究で「更年期についての知識を習得した上で運動することが、イライラするなどの更年期特有の症状を改善する」という結果が出ています5)。

具体的な運動習慣としては「息が弾み汗をかく程度の運動を毎週60分」行うのが理想的です。例えば軽い筋力トレーニングやラジオ体操、ウォーキングなど、継続しやすい運動がおすすめとなります

しかし今まで運動習慣のなかった方にとって、上記のような軽い運動でも毎週60分行うことはハードルが高いもの。まずは日常生活の中で10分だけでよいので、いつもより多く体を動かすようにしてみてください。

毎日無理のない範囲で継続して「少しでも体を動かす習慣」を自然と身につけていくことを心がけるとよいです。

睡眠を見直す

睡眠の見直しは、夜更かしはやめてしっかりと睡眠時間を確保するように努めます。具体的には、午前0時から6時の間は眠れていることが理想です。

国内で行われた実験によると、午前0時から6時まで6時間の睡眠をとったグループと午前3時から6時まで3時間の睡眠をとったグループを比較した場合、日中の作業中覚醒度に差がみられたという結果が出ています6)。

3時間睡眠だったグループは、翌日どの時間帯においても6時間睡眠だったグループより作業中の覚醒度が低かったのだそうです。

また被験者本人達の感覚としても、3時間睡眠のグループは眠気・不快感・だるさが6時間睡眠のグループよりも大きいという結果が得られました。

更年期では「なかなか寝つけない」という悩みも多く見られますが、眠れないからとスマホやパソコンを見てしまうと逆効果。スマホやパソコン画面から発せられる強い光で脳が昼間だと勘違いを起こし覚醒してしまうからです。

まずは布団に入る時間と起床時間を一定にして睡眠のリズムを作るようにします。夕方以降のアルコール類やカフェイン類を避け、寝る前はリビングを間接照明に切り替えるなど睡眠への準備を整えていくのもよいです。

更年期の症状には漢方という選択肢も

漢方には「婦人科三大処方」と呼ばれるほど、婦人科でよく使われる漢方薬があります。以下3種類の漢方が更年期の症状に対してよく処方される漢方薬です1)。

  • 当帰芍薬散:比較的体力が低下しており冷え性で貧血傾向がある方向け。
  • 加味逍遙散:比較的虚弱体質で疲れやすく、不安・不眠など精神症状の訴えがある方向け。
  • 桂枝茯苓丸:中等度以上の体力でのぼせ傾向、下腹部に圧痛を訴える方向け。

漢方には「証」や「気・血・水」という独自の考え方があり、自分に合った漢方薬を見つけるのは素人には難しいもの。漢方に詳しい医師や薬剤師などに相談しながら試していき、自分に合った漢方を見つけることが大切です。

ただし更年期に使用する漢方は即効性を感じるものではありません。少なくとも2週間程度服用を続けて気分や体調に変化がないか様子をみます。

漢方は生活習慣の改善にプラスして体の中からゆっくりとバランスを整えていきたいと思っている方におすすめの選択肢となります。

まとめ

更年期にはホットフラッシュや疲れやすさなど様々な症状があります。症状は大きく4つ(精神症状、血管運動症状、身体症状、泌尿生殖器症状)に分類され、集中力や記憶力の低下は精神症状の一種です。

集中力の低下で日常生活や仕事に支障がある方は「食事・運動・睡眠」を見直して集中力の低下に対処します。

食事は加工食品や砂糖入り飲料の摂取を控え、野菜の摂取量を多くします。運動は1日の中で座っている時間をできるだけ少なくすることから始めるとよいです。運動習慣のない方は今よりプラス10分で良いので、歩いたり掃除をしたりして体を動かす習慣をつけることから始めてみてください。

夜更かしをしてしまうと翌日丸一日、集中力や作業効率の低下をまねくことになります。睡眠リズムを整え、毎日午前0時から6時間はぐっすり眠れる状態を目指しましょう。

じっくりと体質を変えて更年期の集中力低下に対処していきたいという方には漢方薬もおすすめです。

更年期の症状は非常に辛いものですが、実は普段の生活の中でできる対策も色々あります。無理なくできるところから始めてみて、自身の体の変化と上手につき合いながら穏やかにハツラツとした毎日を過ごせるでしょう。

参考文献

1) 橋口知輝・武藤崇.更年期症状に対する認知・行動療法の展望.2017 http://pscenter.doshisha.ac.jp/journal/PDF/Vol7/pp49-.pdf

2) 昭和大学医学部精神医学講座・昭和大学医学部内科学講座.更年期障害と更年期に好発する精神疾患.2017 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshowaunivsoc/77/4/77_379/_pdf/-char/ja#:~:text=%E4%B8%80%E6%96%B9%E3%81%A7%EF%BC%8C%E6%9B%B4%E5%B9%B4%E6%9C%9F%E5%A4%96%E6%9D%A5%E3%82%92,%E3%82%92%E8%A1%8C%E3%81%86%E5%BF%85%E8%A6%81%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8B%EF%BC%8E

3) Noll PRES, et al. Life habits of postmenopausal women: Association of menopause symptom intensity and food consumption by degree of food processing. 2022 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35033227/

4) Creasy SA, et al. Higher amounts of sedentary time are associated with short sleep duration and poor sleep quality in postmenopausal women. 2019 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30994175/

5) 宮内清子・佐久間夕美子・佐藤千史.更年期女性に対する健康教育に関する過去10年間の文献検討.2009 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kenkokyoiku/17/1/17_1_3/_pdf/-char/ja

6) 瀬尾明彦.睡眠時間が翌日終日の認知・運動機能に与える影響.2008 https://www.jstage.jst.go.jp/article/ithc/3/2/3_2_96/_pdf

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